Stage 57:アンダーグラウンド
1995年3月20日に発生した地下鉄サリン事件の被害者や関係者へのインタビューをまとめた本です。
村上春樹さんの本は好きなのでこの本の存在は知ってましたが、今回初めて読みました。
この事件当時、私は小学校低学年でテレビでこの事件に関する報道やオウム施設への強制捜査などを見ていた記憶はあるものの正直あまり覚えていないし、何か大変なことが起こったんだな程度しか理解していませんでした。
この本に関しても村上春樹さんの書くノンフィクションってどんな感じなんだろうという思いと、内容が重そうだなという推測がありなかなか手を出せずにいました。
そんな中で先月にオウム関係者への死刑執行があり関連ニュースが多く報道されこの本のことを思いだしました。
今回のニュースを通じて再び地下鉄サリン事件で何が起こったのかオウムはどのような集団だったのかなど報道をしていて、ざっくりとした内容やテロ事件として被害者数が6000人を超えているなど知らなかったことを知ることができました。
当時の映像や関連する事件、裁判の話などを見るにつれて「絶対的な悪」として扱われるオウムが事件前まで「とんでもキャラ」的な感じでマスメディアに扱われていたということも知りマスメディアでは伝えられないことをもう少し知りたいと思うようになり今回この本を手に取りました。
かなり分厚い本で、62名の関係者へのインタビューをまとめたノンフィクションの作品となっています。文体はとても読みやすいですが、内容はかなり重い。
深くて思い話ですが、これは間違いなく読むべき本です。
インタビューは被害者一人ひとりの背景から事件当日の話、そして事件後の話と人それぞれの感じ方や被害者目線での事件発生当時の雰囲気などが感じられます。
特に最後の遺族の方へのインタビューは泣きながら読みました。
普通の人が普通の生活を暮らしていたらある日突然いろいろな意味で「普通」を失ってしまう、そしてその普通の人は私だったかもしれない
インタビューの最後は村上春樹さん自身が投げかける「目じるしのない悪魔」でしめられています。その中でこのような問いがあります。
「あちら側」の差し出す物語 =中略= それに対して、「こちら側」の私たちはいったいどんな有効な物語を持ち出すことができるだろう?
この問に対して20年以上たったイマを生きる「こちら側」の私たちはまだ有効な物語を持ち出すことができていないのではないかと感じました。
もちろんそれは日本に限った話ではなく、情報が多く流通するようになったイマだからこそ「あちら側」の物語にふれる機会が増え、またそれに惹かれる人が増えている気がします。それは以前のオウムのような実態を伴った組織ではないかもしれないけれども確実にその物語に魅了、心酔するヒトのつながりがあるのかなと
もちろん組織に限った話ではなく、いわゆる「無敵の人」と言われる人たちもある意味「あちら側」の物語に魅了、心酔した人たちなのかもしれない
今度は「あちら側」をインタビューした「約束された場所で」を読んでみようかなと思います。